Parcel Locker Number Fourteen
宅配ボックスの十四番
引っ越してきて三週間がたつ。このマンションには、一階の入り口の横に宅配ボックスが並んでいて、全部で十二個ある。仕事で帰りの遅いわたしにとって、留守の日でも荷物が受け取れるこの設備は、ありがたい存在だった。
その夜も、帰りは十一時を過ぎていた。郵便受けを開けると、白い紙が一枚入っていて、不在連絡票かと思ったが、よく見ると、ボックスの番号と暗証番号が手書きで書いてあるだけで、配送会社の名前はどこにもない。番号は「十四」だった。
十四番など、あるはずがない。ボックスは十二個しかないのだから、おかしいと思いながら、紙を持ったまま入り口の横へ行き、端から順に数えてみた。やはり十二個で、一番右の十二番の隣には、白い壁があるだけだった。いたずらだろうと考えて部屋に戻ろうとしたとき、壁の低いところに、小さな扉があるのが見えた。さっきまでは、少しも気づかなかったものだ。
扉には、確かに「十四」と書いてあった。もう少しで笑ってしまうところだったが、マンションの設備なのに、こんなふうに隠れた扉を作る理由がわからない。その小さな扉には、見る者を落ち着かなくさせるものがあった。それでも、紙に書かれた暗証番号を押してみると、小さな音がして、扉が静かに開いた。
中には、小さな段ボール箱が一つ入っていた。宛名はわたしの名前と今の部屋番号で、送り主の欄を見たとき、わたしは思わず息をのんだ。そこにも、わたしの名前が書いてあったからだ。しかも、荷物を送った日付は、明日になっている。
部屋に持ち帰って箱を開けると、中には合鍵が一本と、折りたたんだ紙が入っていた。部屋の鍵は二本とも机の上にあるし、三本目の合鍵を作った覚えはない。紙の字を見たとたん、背筋が冷たくなった。丸みのある、少し右上がりの字で、それはどう見ても、わたし自身の字だった。
「今夜は、必ずチェーンをかけて寝ること。誰が来ても、ドアを開けないこと。」
わたしは、笑おうとした。疲れているせいで変な夢を見ているのかもしれないし、誰かがわたしの字をまねて、からかっている可能性も、なくはない。そう考えないことには、落ち着いていられなかった。
念のため、ドアにチェーンをかけて布団に入ったが、夜が深くなるにつれて、部屋の静けさが重く感じられた。時計の針の音さえ、いつもより大きく聞こえる。
午前二時ごろ、玄関のほうで小さな音がした。鍵穴に何かが差し込まれる音で、それはゆっくりと、ためすように動いていた。わたしは布団の中で息を止めた。かちゃり、と鍵が回り、ドアが開いたかと思うと、チェーンがぴんと張って止まった。もう少しで声が出るところだった。隙間から、廊下の明かりが細く入ってきた。
「宅配便です。」
低くも高くもない、感情のない声だったが、聞く者を黙らせるものがあった。わたしは返事をしなかった。ここで答えてしまったら、何かが取り返しのつかない形で終わってしまうような気がしたからだ。
「お荷物をお届けに来ました。ここに、お名前をお願いします。」
声は、同じ調子で続いた。こんな時間に宅配便が来るはずがないと思っていると、隙間から、白い手袋をはめた手がゆっくりと伸びてきた。指先には、ペンと一枚の受け取り票が挟まれている。もう少しでペンを受け取ってしまうところだった。受け取り票には、まだ書いていないはずの今日の日付と、わたしのサインが、すでに書き込まれていた。
わたしはドアに背中を押しつけたまま、一歩も動かなかった。手はいつまでも待っていたが、何分たったのかはわからない。やがて受け取り票は静かに引っ込み、ドアが閉まって、鍵が元どおりに回る音がした。足音はしなかった。ただ、ほのかに段ボールのにおいが残っていた。
朝になって、昨夜のことを確かめないことには仕事に行けない気がして、管理人室を訪ねた。年配の管理人は、わたしの話を黙って聞いてから、困ったような顔で言った。
「宅配ボックスは、十二個ですよ。十四番という扉は、ありませんが。」
「でも、昨日の夜、確かに開けたんです。」
「そうですか。まあ、ご自分の目で見ないことには、納得できないでしょうね。」
いっしょに入り口の横へ行くと、壁には扉などなかった。白い壁の低いところに、小さな四角いあとが、うっすらと残っているだけだった。わたしは、もう少しで声を上げるところだった。管理人は、しばらくその壁を見つめてから、ぽつりと言った。
「前にあの部屋に住んでいた方も、同じことを言っていましたよ。引っ越す前の週にね。」
「その方は、どうして引っ越したんですか。」
「さあ。ただ、荷物は全部、ご自分で送っていました。宅配便でね。」
部屋に戻ると、机の上に昨夜の紙が置いてあり、何気なく裏を返して、わたしの手は止まった。さっきまで白かったはずの裏に、一行だけ、字が増えている。
「次は、あなたが送る番。」
丸みのある、少し右上がりの字だった。その字には、他人にはまねのできないものがある。いたずらだと思いたいけれども、いつかわたし自身がこの字を書く日が来なくはない、という予感が、胸の底から消えなかった。
わたしは紙を引き出しにしまい、合鍵を財布の奥に入れてから、玄関のチェーンをもう一度確かめた。
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JLPT-style reading questions. Pick the best answer.
Q1
郵便受けの紙に書いてあった「十四番」は、なぜおかしいのですか。
The building has only twelve lockers. 「ボックスは十二個しかないのだから」
Q2
「もう少しで声が出るところだった」は、どういう意味ですか。
〜ところだった: it almost happened, but did not. 「もう少しで声が出るところだった」
Q3
箱の中の紙を見て、「わたし」の背筋が冷たくなったのは、なぜですか。
The handwriting was clearly her own. 「それはどう見ても、わたし自身の字だった」
Q4
「そう考えないことには、落ち着いていられなかった」は、どういう意味ですか。
〜ないことには: without thinking so, she could not stay calm. 「そう考えないことには、落ち着いていられなかった」
Q5
ドアの外の声に「わたし」が返事をしなかったのは、なぜですか。
She felt something would end irreversibly if she answered. 「ここで答えてしまったら、何かが取り返しのつかない形で終わってしまうような気がしたからだ」
Words in this story
Tab-separated, two columns. Paste into Anki.
設備 せつび — facilities, equipment 不在連絡票 ふざいれんらくひょう — missed-delivery notice 暗証番号 あんしょうばんごう — PIN code 宛名 あてな — addressee name 合鍵 あいかぎ — spare key 背筋 せすじ — spine, back 隙間 すきま — gap, crack 受け取り票 うけとりひょう — receipt slip 取り返しのつかない とりかえしのつかない — irreversible 管理人 かんりにん — building manager うっすらと うっすらと — faintly 予感 よかん — premonition
Grammar review
Patterns from this story. Find them again as you reread.
少しも~ない(すこしも~ない)
not even a little (with negative)
さっきまでは、少しも気づかなかったものだ。
もう少しで(もうすこしで)
almost; nearly
もう少しで笑ってしまうところだったが…
ふうに
in such a way; like this or that
こんなふうに隠れた扉を作る理由がわからない。
ものがある
there is something (about it); it has a quality
その小さな扉には、見る者を落ち着かなくさせるものがあった。
しかも
moreover; and yet
しかも、荷物を送った日付は、明日になっている。
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