The Old Man Who Made Trees Bloom
花咲かじいさん
昔々、ある村のはずれに、働き者の老夫婦が住んでいた。子どもがいない二人は、道ばたで拾った白い犬を「シロ」と名づけ、わが子のように可愛がっていた。シロのほうも二人によく懐き、畑へ行くときは、いつも二人のうしろをついて歩いた。雨の日には、縁側で丸くなって、二人の帰りを待っていた。
隣の家には、欲の深い夫婦が住んでいた。人の持ち物を羨ましがるばかりで、自分のものは、だれにも貸そうとしない。村人たちが二人を避けるのも当然だった。その家の垣根は、いつも高かった。
ある秋の朝、老人が鍬を担いで畑へ出ると、シロが後から走ってきて、畑の隅で激しく鳴き始めた。 「ワンワン、ここ掘れ、ワンワン」 鳴き声があまりに必死だったので、老人は、半信半疑のまま、そこを掘ってみた。土は固く、鍬の先が何度もはね返された。それでも、老人は掘り続けた。やがて、鍬の先が、固いものに当たった。すると、土の中から、眩しく光る小判が、後から後から出てきたのである。老人は、泥だらけになるのもかまわず、両手で小判を掬い上げ、大声で妻を呼んだ。夢ではなかった。
その夜、二人は、これはシロがくれた神様の贈り物にちがいないと話し合い、小判の一部を、村の貧しい家に配った。自分たちだけで使えばいいのにと、呆れる人もいたが、二人にとっては、それが当たり前のことだった。村の子どもたちは、小判で買ったあめをなめながら、シロの頭をなでて回った。
この話は、すぐに隣の夫婦の耳に入った。欲張りな夫婦は、ただ羨ましがるだけならまだしも、シロを無理やり借りていくという、とんでもない手に出た。老人は「あの子は物ではないよ。乱暴に扱うものではない」と何度も頼んだが、夫婦は聞く耳を持たず、シロを引っ張って、自分たちの畑へ連れていってしまった。
畑に着くと、シロは、可哀想なほど震えながら、一か所で小さく鳴いた。その目は、悲しそうだった。 「ここ掘れ、ワン」 夫婦は、人目もかまわずわめきながら、競うようにそこを掘った。ところが、出てきたのは、小判どころか、割れた茶碗や、腐ったごみばかりだった。 「うそつきの犬め。よくも、わしらをばかにしたな」 怒りに燃えた夫は、そばにあったくわで、シロを叩いてしまった。シロは、そのまま動かなくなった。
老人は、変わり果てたシロを抱いて帰った。泣きながら畑の隅に埋め、その上に小さな松の苗木を植えた。「おまえのおかげで、わしらは、人としての喜びを知ることができた」と、そっと手を合わせた。風が、冷たかった。その冬は、いつもの年より雪が深かった。老人は、毎朝、墓の雪を払い、そこに水を供えた。
ところが、植えて間もない苗木は、一晩で、見上げるほどの大木に育った。その夜、老人の夢にシロがあらわれて言った。 「おじいさん、あの松で、臼を作ってください。その臼で餅をついてくれたら、きっといいことがありますよ」 老人は、目をさますなり松を切り、立派な臼を作った。妻が米を蒸し、老人が杵を振るうと、臼の中の餅は、つくたびに小判に変わった。二人は、驚くよりも先に、シロの優しさを思って泣いた。老人は、小判の山を前にして、ただ「ありがとう」と何度もくり返した。
隣の夫婦は、またしても羨ましくなり、臼を借りていった。しかし、夫婦が餅をつくと、出てくるのは、鼻をつく悪臭のするがらくたばかりだった。 「こんな臼は、いらん」 夫婦は、臼を叩き割り、火にくべて燃やしてしまった。
老人は、臼があった場所に残った灰を、笊に集めて持ち帰った。シロが最後まで守ってくれた木の灰を、捨てる気にはなれなかったのだ。その夜、また夢にシロが出てきた。 「その灰を、枯れ木に撒いてください。きれいな花が咲きますよ」
翌朝、老人は、庭の枯れた桜の木に灰を撒いてみた。長年、畑仕事をしてきた経験上、枯れ木に花が咲くはずがないことは、よく知っていた。ところが、冬のさなかだというのに、枝という枝に一斉に花がひらき、庭じゅうが、うす桃色の雲に包まれたようになった。枝が、重そうに揺れていた。知らせを聞いて、村じゅうの人が見に来た。子どもたちは歓声を上げ、年寄りは手を合わせた。
ちょうどそこへ、殿さまの行列が通りかかった。殿さまは、立場上、めったに人をほめないことで有名だったが、このときばかりは、馬から降りるのも忘れて見惚れていた。 「これはみごとだ。褒美をとらそう」 殿さまは、老人に、たくさんの褒美を与えた。
これを聞いた隣の夫婦は、わずかに残っていた臼の灰を掻き集め、行列が通る道ばたの木によじ登った。 「花を咲かせれば、わしらも褒美がもらえる」 夫婦は、寒さに震えるのもかまわず、木のてっぺんから灰を撒き散らした。ところが、花が咲かなかっただけならまだしも、強い風が吹いて、灰は、殿さまの目や口に入ってしまった。殿さまが怒るのも当然で、夫婦は、その場で捕らえられ、牢に入れられた。
そののち、老夫婦は、殿さまにもらった褒美で、新しい家を建てた。小さいながらも、暮らしに困らない家だった。毎年春になると、シロのお墓の前に、桜の枝を供えた。 「おまえのおかげだよ」 老人が言うと、風が枝を揺らして、シロが返事をしたかのように、花びらがはらはらと舞った。人のものを力ずくで奪おうとするものではない。老人は、花びらを見上げながら、そう思った。春の風が、優しかった。
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JLPT-style reading questions. Pick the best answer.
Q1
老夫婦が、小判の一部を村の貧しい家に配ったのは、なぜですか。
They thought it was a gift from Shiro and saw sharing as natural. 「これはシロがくれた神様の贈り物にちがいない」…「二人にとっては、それが当たり前のことだった」
Q2
「ただ羨ましがるだけならまだしも」という言い方は、何を表していますか。
AならまだしもB: A would be tolerable, but B is the real problem. 「ただ羨ましがるだけならまだしも、シロを無理やり借りていくという、とんでもない手に出た」
Q3
隣の夫婦が、臼を叩き割って燃やしてしまったのは、なぜですか。
Instead of gold coins, only foul-smelling junk came out, so they were furious. 「出てくるのは、鼻をつく悪臭のするがらくたばかりだった」
Q4
「殿さまが怒るのも当然で」と言っているのは、なぜですか。
〜のも当然だ says the reaction is only natural: ashes blew into his eyes and mouth. 「灰は、殿さまの目や口に入ってしまった。殿さまが怒るのも当然で」
Q5
老人が臼の灰を持ち帰ったのは、なぜですか。
He could not bring himself to throw away the ashes of the tree Shiro had protected. 「シロが最後まで守ってくれた木の灰を、捨てる気にはなれなかったのだ」
Words in this story
Tab-separated, two columns. Paste into Anki.
老夫婦 ろうふうふ — an old married couple 欲張り よくばり — greedy; a greedy person 小判 こばん — oval gold coin of the Edo period 苗木 なえぎ — sapling 灰 はい — ashes 枯れ木 かれき — dead tree 殿さま とのさま — feudal lord 行列 ぎょうれつ — procession 褒美 褒美 — reward 悪臭 あくしゅう — bad smell 見惚れる みとれる — to gaze in admiration 供える そなえる — to offer (flowers, food)
Grammar review
Patterns from this story. Find them again as you reread.
も当然だ(もとうぜんだ)
no wonder; only natural
村人たちが二人を避けるのも当然だった。
やがて
before long; eventually
やがて、鍬の先が、固いものに当たった。
もかまわず
paying no attention to
老人は、泥だらけになるのもかまわず、両手で小判を掬い上げ、大声で妻を呼んだ。
まだしも
(X) is still okay, but (Y)...
ただ羨ましがるだけならまだしも…
ものではない
one shouldn't; it isn't something to do
乱暴に扱うものではない」と何度も頼んだが…
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