The Tongue-Cut Sparrow
舌切り雀
むかしむかし、山のふもとの小さな村に、心のやさしいおじいさんと、欲深いおばあさんが住んでいた。二人の家は貧しく、毎日の食事も麦のかゆでしかなかったが、おじいさんは少しも不満を言わなかった。おばあさんのほうは、近所の家の白い米を見るたびに、ため息をついていた。
ある朝、おじいさんが庭の掃除をしていると、竹やぶのそばで一羽の雀が倒れていた。羽に小さな傷があり、どうやら鳥に追われて逃げてきたらしい。おじいさんは雀をそっと両手に包んで家に連れて帰り、薬草をつけて、毎日米つぶを分けてやった。
「ご飯を分けてやるなんて、うちには余裕などないのですよ」とおばあさんは文句を言ったが、おじいさんは笑って答えた。
「かゆが食べられるだけましだ。この子は、それさえ食べられなかったのだから」
傷が治るころには、雀はすっかり家になじんでいた。朝になるとおじいさんの肩にとまり、きれいな声で歌う。その歌を聞くと、一日の仕事も楽しく思えるのだった。
そんなある日、おじいさんが山へ薪を取りに出かけた留守に、事件が起きた。おばあさんは、洗濯物に使うために糊を作っておいたのだが、お椀の中がからになっている。雀が全部食べてしまったのだ。糊がなくなって洗濯どころではないと、おばあさんはかんかんに怒った。
「この泥棒雀め。舌があるから悪さをするのだ」
おばあさんははさみを持ってくると、逃げようとする雀をつかまえ、その舌をちょきんと切ってしまった。雀は悲しそうに鳴いて、空へ飛んでいった。
夕方、薪を背負って帰ってきたおじいさんは、事のしだいを聞いて青くなった。
「なんということをしたのだ。あの子は、うちの家族も同じだったのに」
おじいさんは夕飯を食べるどころではなかった。その夜はほとんど眠れず、夜が明けるとすぐに家を出て、雀を探しに山へ向かった。野原を歩き、竹やぶを抜け、会う人ごとに「舌を切られた雀を知りませんか」とたずねた。けれども、答えてくれる人はいなかった。
日が高くなったころ、道ばたで牛を洗っていた男が言った。
「その雀なら、この先の竹やぶの奥に家があると聞いたことがある。どうやら、そこに住んでいるらしい」
おじいさんは礼を言い、教えられた道を急いだ。足は痛み、のども渇いていたが、雀に会うまでは休む気になれなかった。
竹やぶの奥には、小さいが立派な屋敷があった。門の前に立つと、中から雀の一族が飛び出してきて、口々に叫んだ。
「おじいさんだ。おじいさんが来てくださった」
屋敷の奥から、舌を切られた雀が、ゆっくりと姿を見せた。おじいさんは涙をこぼしながら、雀に頭を下げた。
「すまなかった。わたしがいながら、ひどい目にあわせてしまった」
雀はもう歌えなかったが、大きく羽を広げ、全身でよろこびをあらわした。一族の雀たちは、おじいさんを座敷に案内し、山のようなごちそうを並べた。きれいな着物を着た雀たちが、舞を見せ、笛を吹いてくれる。おじいさんにとっては夢のような時間で、思わず長居をしてしまった。
「ご迷惑でなければ、もう一晩どうぞ」と雀たちは言ったが、おじいさんは首を横にふった。
「そうもしていられない。家で、ばあさんが待っているからな」
別れぎわ、雀たちは大小二つの葛籠を持ってきた。
「お土産です。どちらかお好きなほうを、お持ちください」
おじいさんは、重いほうの大きな葛籠を見て、ためらった。
「年寄りには、大きいのは持てない。小さいほうをいただこう。お前たちに会えただけで、わたしには十分な土産だ」
おじいさんは小さな葛籠を背負い、手をふって屋敷をあとにした。
家に帰って葛籠をあけてみると、中には金の小判や、きれいな布がぎっしり入っていた。おじいさんは目を丸くした。ところが、おばあさんは喜ぶどころではなかった。
「どうして大きいほうをもらってこなかったのです。小さい葛籠でこれなら、大きい葛籠の中身は、いったいどれほどだったことか」
おばあさんはそう言って、止めるのも聞かずに家を飛び出した。雀の屋敷に着くと、門の前で大声を出した。
「おじいさんがお世話になりました。お土産をいただきに来ましたよ」
雀たちは、困った顔で出迎えた。おばあさんは座敷に通されても、ごちそうには手をつけず、帰り道のことばかり気にしている。
「お土産は、大きいほうの葛籠をくださいな」
雀たちは顔を見合わせたが、やがて大きな葛籠を運んできた。おばあさんは、お礼もそこそこに葛籠を背負い、一目散に屋敷を出た。重くて歩きにくいが、中身を思うと、それも苦にならなかった。
しかし、途中でがまんできなくなった。道ばたに葛籠をおろし、ふたをあけたとたん、中からおばけや蛇が次々に飛び出してきた。おばあさんは悲鳴をあげ、腰をぬかしてしまった。
その後、おばあさんがどうなったのかを、くわしく語る人はいない。ただ、おじいさんはそれからも雀の歌を思い出しながら、静かに暮らしたという。欲を出しすぎた人にとって、あの大きな葛籠は、わざわいの箱でしかなかったのである。
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JLPT-style reading questions. Pick the best answer.
Q1
おじいさんが雀を家に連れて帰ったのは、なぜですか。
The sparrow lay injured, apparently chased by a bird. 「羽に小さな傷があり、どうやら鳥に追われて逃げてきたらしい。」
Q2
おばあさんが雀の舌を切ったのは、なぜですか。
The sparrow had eaten all her laundry starch. 「雀が全部食べてしまったのだ。」
Q3
おじいさんが小さい葛籠を選んだのは、なぜですか。
He felt he could not carry the big one and meeting them was gift enough. 「年寄りには、大きいのは持てない。小さいほうをいただこう。」
Q4
おばあさんが雀の屋敷に行ったのは、なぜですか。
She reasoned that if the small one held this much, the big one must hold far more. 「小さい葛籠でこれなら、大きい葛籠の中身は、いったいどれほどだったことか」
Q5
おばあさんが大きい葛籠を開けたとき、何が起こりましたか。
Ghosts and snakes burst out. 「中からおばけや蛇が次々に飛び出してきた。」
Words in this story
Tab-separated, two columns. Paste into Anki.
雀 すずめ — sparrow 薪 たきぎ — firewood 糊 のり — paste, starch glue 舌 した — tongue 欲深い よくぶかい — greedy 葛籠 つづら — wicker clothes basket 小判 こばん — old gold coin 座敷 ざしき — tatami room 腰をぬかす こしをぬかす — to be too scared to stand わざわい わざわい — disaster, misfortune 留守 るす — being away from home 一目散 いちもくさん — at full speed
Grammar review
Patterns from this story. Find them again as you reread.
でしかない
nothing more than; merely
毎日の食事も麦のかゆでしかなかったが…
少しも~ない(すこしも~ない)
not even a little (with negative)
おじいさんは少しも不満を言わなかった。
どうやら
it seems that; somehow or other
羽に小さな傷があり、どうやら鳥に追われて逃げてきたらしい。
だけましだ
at least it's better than; be thankful that
「かゆが食べられるだけましだ。」
どころではない
no time or room for; far from
糊がなくなって洗濯どころではないと、おばあさんはかんかんに怒った。
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