The Tongue-Cut Sparrow

舌した切きり雀すずめ

1 / 1

むかしむかし、山やまのふもとの小ちいさな村むらに、心こころのやさしいおじいさんと、欲深よくぶかいおばあさんが住すんでいた。二人ふたりの家いえは貧まずしく、毎日まいにちの食事しょくじも麦むぎのかゆでしかなかったが、おじいさんは少すこしも不満ふまんを言いわなかった。おばあさんのほうは、近所きんじょの家いえの白しろい米こめを見みるたびに、ため息いきをついていた。

ある朝あさ、おじいさんが庭にわの掃除そうじをしていると、竹たけやぶのそばで一羽いちわの雀すずめが倒たおれていた。羽はねに小ちいさな傷きずがあり、どうやら鳥とりに追おわれて逃にげてきたらしい。おじいさんは雀すずめをそっと両手りょうてに包つつんで家いえに連つれて帰かえり、薬草やくそうをつけて、毎日まいにち米こめつぶを分わけてやった。

「ご飯はんを分わけてやるなんて、うちには余裕よゆうなどないのですよ」とおばあさんは文句もんくを言いったが、おじいさんは笑わらって答こたえた。

「かゆが食たべられるだけましだ。この子こは、それさえ食たべられなかったのだから」

傷きずが治なおるころには、雀すずめはすっかり家いえになじんでいた。朝あさになるとおじいさんの肩かたにとまり、きれいな声こえで歌うたう。その歌うたを聞きくと、一日いちにちの仕事しごとも楽たのしく思おもえるのだった。

そんなある日ひ、おじいさんが山やまへ薪たきぎを取とりに出でかけた留守るすに、事件じけんが起おきた。おばあさんは、洗濯物せんたくものに使つかうために糊のりを作つくっておいたのだが、お椀わんの中なかがからになっている。雀すずめが全部食ぜんぶたべてしまったのだ。糊のりがなくなって洗濯せんたくどころではないと、おばあさんはかんかんに怒おこった。

「この泥棒どろぼう雀すずめめ。舌したがあるから悪わるさをするのだ」

おばあさんははさみを持もってくると、逃にげようとする雀すずめをつかまえ、その舌したをちょきんと切きってしまった。雀すずめは悲かなしそうに鳴ないて、空そらへ飛とんでいった。

夕方ゆうがた、薪たきぎを背負せおって帰かえってきたおじいさんは、事ことのしだいを聞きいて青あおくなった。

「なんということをしたのだ。あの子こは、うちの家族かぞくも同おなじだったのに」

おじいさんは夕飯ゆうはんを食たべるどころではなかった。その夜よるはほとんど眠ねむれず、夜よるが明あけるとすぐに家いえを出でて、雀すずめを探さがしに山やまへ向むかった。野原のはらを歩あるき、竹たけやぶを抜ぬけ、会あう人ひとごとに「舌したを切きられた雀すずめを知しりませんか」とたずねた。けれども、答こたえてくれる人ひとはいなかった。

日ひが高たかくなったころ、道みちばたで牛うしを洗あらっていた男おとこが言いった。

「その雀すずめなら、この先さきの竹たけやぶの奥おくに家いえがあると聞きいたことがある。どうやら、そこに住すんでいるらしい」

おじいさんは礼れいを言いい、教おしえられた道みちを急いそいだ。足あしは痛いたみ、のども渇かわいていたが、雀すずめに会あうまでは休やすむ気きになれなかった。

竹たけやぶの奥おくには、小ちいさいが立派りっぱな屋敷やしきがあった。門もんの前まえに立たつと、中なかから雀すずめの一族いちぞくが飛とび出だしてきて、口々くちぐちに叫さけんだ。

「おじいさんだ。おじいさんが来きてくださった」

屋敷やしきの奥おくから、舌したを切きられた雀すずめが、ゆっくりと姿すがたを見みせた。おじいさんは涙なみだをこぼしながら、雀すずめに頭あたまを下さげた。

「すまなかった。わたしがいながら、ひどい目めにあわせてしまった」

雀すずめはもう歌うたえなかったが、大おおきく羽はねを広ひろげ、全身ぜんしんでよろこびをあらわした。一族いちぞくの雀すずめたちは、おじいさんを座敷ざしきに案内あんないし、山やまのようなごちそうを並ならべた。きれいな着物きものを着きた雀すずめたちが、舞まいを見みせ、笛ふえを吹ふいてくれる。おじいさんにとっては夢ゆめのような時間じかんで、思おもわず長居ながいをしてしまった。

「ご迷惑めいわくでなければ、もう一晩ひとばんどうぞ」と雀すずめたちは言いったが、おじいさんは首くびを横よこにふった。

「そうもしていられない。家いえで、ばあさんが待まっているからな」

別わかれぎわ、雀すずめたちは大小二だいしょうふたつの葛籠つづらを持もってきた。

「お土産みやげです。どちらかお好すきなほうを、お持もちください」

おじいさんは、重おもいほうの大おおきな葛籠つづらを見みて、ためらった。

「年寄としよりには、大おおきいのは持もてない。小ちいさいほうをいただこう。お前まえたちに会あえただけで、わたしには十分じゅうぶんな土産みやげだ」

おじいさんは小ちいさな葛籠つづらを背負せおい、手てをふって屋敷やしきをあとにした。

家いえに帰かえって葛籠つづらをあけてみると、中なかには金きんの小判こばんや、きれいな布ぬのがぎっしり入はいっていた。おじいさんは目めを丸まるくした。ところが、おばあさんは喜よろこぶどころではなかった。

「どうして大おおきいほうをもらってこなかったのです。小ちいさい葛籠つづらでこれなら、大おおきい葛籠つづらの中身なかみは、いったいどれほどだったことか」

おばあさんはそう言いって、止とめるのも聞きかずに家いえを飛とび出だした。雀すずめの屋敷やしきに着つくと、門もんの前まえで大声おおごえを出だした。

「おじいさんがお世話せわになりました。お土産みやげをいただきに来きましたよ」

雀すずめたちは、困こまった顔かおで出迎でむかえた。おばあさんは座敷ざしきに通とおされても、ごちそうには手てをつけず、帰かえり道みちのことばかり気きにしている。

「お土産みやげは、大おおきいほうの葛籠つづらをくださいな」

雀すずめたちは顔かおを見合みあわせたが、やがて大おおきな葛籠つづらを運はこんできた。おばあさんは、お礼れいもそこそこに葛籠つづらを背負せおい、一目散いちもくさんに屋敷やしきを出でた。重おもくて歩あるきにくいが、中身なかみを思おもうと、それも苦くにならなかった。

しかし、途中とちゅうでがまんできなくなった。道みちばたに葛籠つづらをおろし、ふたをあけたとたん、中なかからおばけや蛇へびが次々つぎつぎに飛とび出だしてきた。おばあさんは悲鳴ひめいをあげ、腰こしをぬかしてしまった。

その後あと、おばあさんがどうなったのかを、くわしく語かたる人ひとはいない。ただ、おじいさんはそれからも雀すずめの歌うたを思おもい出だしながら、静しずかに暮くらしたという。欲よくを出だしすぎた人ひとにとって、あの大おおきな葛籠つづらは、わざわいの箱はこでしかなかったのである。

Check your reading

JLPT-style reading questions. Pick the best answer.

  1. Q1

    おじいさんが雀すずめを家いえに連つれて帰かえったのは、なぜですか。

  2. Q2

    おばあさんが雀すずめの舌したを切きったのは、なぜですか。

  3. Q3

    おじいさんが小ちいさい葛籠つづらを選えらんだのは、なぜですか。

  4. Q4

    おばあさんが雀すずめの屋敷やしきに行いったのは、なぜですか。

  5. Q5

    おばあさんが大おおきい葛籠つづらを開あけたとき、何なにが起おこりましたか。

Words in this story

Tab-separated, two columns. Paste into Anki.

雀	すずめ — sparrow
薪	たきぎ — firewood
糊	のり — paste, starch glue
舌	した — tongue
欲深い	よくぶかい — greedy
葛籠	つづら — wicker clothes basket
小判	こばん — old gold coin
座敷	ざしき — tatami room
腰をぬかす	こしをぬかす — to be too scared to stand
わざわい	わざわい — disaster, misfortune
留守	るす — being away from home
一目散	いちもくさん — at full speed

Grammar review

Patterns from this story. Find them again as you reread.

  • でしかない

    nothing more than; merely

    毎日の食事も麦のかゆでしかなかったが…

  • 少しも~ない(すこしも~ない)

    not even a little (with negative)

    おじいさんは少しも不満を言わなかった。

  • どうやら

    it seems that; somehow or other

    羽に小さな傷があり、どうやら鳥に追われて逃げてきたらしい。

  • だけましだ

    at least it's better than; be thankful that

    「かゆが食べられるだけましだ。」

  • どころではない

    no time or room for; far from

    糊がなくなって洗濯どころではないと、おばあさんはかんかんに怒った。

More stories to read

All N2 stories →
Yuuki, your Japanese teacher in Tokyo

Your teacher

Read stories like this one, with a teacher beside you

Hi, I'm Yuuki, a native Japanese teacher in Tokyo. My lessons are one-on-one and built around what you already love: anime, manga and the stories you read here. Bring any story from this page and we'll read it together, sort out the grammar that trips you up, and get your pronunciation sounding natural.

  • 5.0358 reviews
  • 2,112lessons taught
  • 443students
  • Top 1%italki teacher

Book a trial lesson · $1330 minutes · pick a time in your own timezone

0:00 / 6:05