Porridge from Next Door
隣の部屋のおかゆ
引っ越して三か月、わたしは一人暮らしにもだいぶなれました。でも、仕事が忙しい日は、夕食をコンビニですませることが多いです。
ある木曜日の朝、目がさめると、のどがとても痛くて、体も重い感じがしました。熱を測ると、三十八度ありました。会社に電話をして休みをもらい、一日中ふとんの中で寝ていました。
夕方、玄関のチャイムが鳴りました。出たくありませんでした。でも、しかたなく、元気なふりをしてドアを開けました。立っていたのは、隣の部屋に住む山口さんでした。山口さんは七十歳ぐらいの女の人です。朝のあいさつをするだけで、あまり話したことはありません。
「顔が赤いですね。具合が悪いんじゃありませんか。」
「別に、たいしたことはありません。ちょっと寝不足なだけです。」
わたしがそう答えると、山口さんは少し笑いました。そして、持っていた小さな鍋を見せました。
「おかゆを作りすぎてしまったんです。よかったら、食べてください。」
断ろうと思いました。でも、おなかがぺこぺこでした。わたしは「ありがとうございます」と言って、鍋を受け取りました。
おかゆには、ねぎと卵が入っていました。ほんのり塩の味がします。熱いおかゆを食べているうちに、体が中からあたたかくなってきました。食べ終わると、なぜか涙が出そうになりました。
次の日の朝、熱は下がりました。わたしは洗った鍋を持って、山口さんの部屋に行きました。
「昨日は、本当に助かりました。ありがとうございました。」
「いいえ、別にお礼はいりませんよ。元気になってよかったです。」
山口さんは、そう言ってから、少し昔を思い出すような顔をしました。
「実は、わたしも昔、風邪をひいたんです。ここに引っ越してきたときです。どんなにつらくても、だれにも言えませんでした。そのとき、隣の人がおかゆを持ってきてくれたんです。」
そして、山口さんは、にっこり笑いました。
「昨日、あなたの部屋の電気が昼も消えていて、気になっていました。ドアの前に何度も来たんですよ。でも、寝ているかもしれないので、聞こえないふりをして帰りました。」
わたしは恥ずかしくなって、少しうつむきました。
「どんなに忙しくても、困ったときは、えんりょしないで言ってくださいね。」
それから、仕事中も、山口さんのことをときどき思い出しました。会議中に、あのおかゆの味を思い出したこともあります。
今では、毎週日曜日のお昼に、山口さんと一緒にごはんを食べています。一人暮らしは、別にさびしくないと思っていました。でも、隣にだれかがいるのは、やっぱり安心です。
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JLPT-style reading questions. Pick the best answer.
Q1
山口さんが来たとき、「わたし」が元気なふりをしたのは、なぜですか。
She barely knew her neighbor and did not want her to see she was sick. 「出たくありませんでしたが、しかたなく、元気なふりをしてドアを開けました。」
Q2
「別に、たいしたことはありません」は、どんな気持ちですか。
別に plus a negative ending plays the matter down. She is hiding how bad she feels.
Q3
山口さんが、「どんなにつらくても、だれにも言えませんでした」と言ったのは、なぜですか。
She had once been alone and sick in the same building, so she understood. 「そのとき、隣の人がおかゆを持ってきてくれたんです。」
Q4
「会議中」の「中」は、どんな意味ですか。
After an action noun, 中 (ちゅう) means in the middle of that action. After a time word, as in 一日中 (いちにちじゅう), it means all through.
Q5
この話の最後で、「わたし」と山口さんの関係は、どうなりましたか。
「今では、毎週日曜日のお昼に、山口さんと一緒にごはんを食べています。」
Words in this story
Tab-separated, two columns. Paste into Anki.
一人暮らし ひとりぐらし — living alone 寝不足 ねぶそく — lack of sleep 具合 ぐあい — condition, how one feels 熱 ねつ — fever 玄関 げんかん — entrance hall, front door 隣 となり — next door, neighbor 鍋 なべ — pot 断る ことわる — to refuse, decline 涙 なみだ — tears 風邪 かぜ — a cold 恥ずかしい はずかしい — embarrassed 会議 かいぎ — meeting
Grammar review
Patterns from this story. Find them again as you reread.
ふりをする
pretend to X
でも、しかたなく、元気なふりをしてドアを開けました。
くらい / ぐらい
about; to the extent of
山口さんは七十歳ぐらいの女の人です。
別に~ない(べつに~ない)
not particularly; nothing special
「別に、たいしたことはありません。」
うちに
while doing X (something changes naturally)
熱いおかゆを食べているうちに、体が中からあたたかくなってきました。
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