The Stationery Shop's Closing Sale
閉店セールの文具店
三月の終わりに閉店する、という貼り紙が出たのは、二月の初めのことでした。駅前の商店街にある「山下文具店」です。わたしは小学生のころから、この店でノートや鉛筆を買ってきました。
先週の土曜日、久しぶりに行ってみました。店の前には「全品三割引」と書いた紙が貼ってあります。中に入ると、昔と同じ紙のにおいがしました。閉店セールにしても、お客さんがとても多くて、レジの前には長い列ができていました。閉店の日が近づくにしたがって、お客さんは増えているそうです。
レジに立っていたのは、店主の山下さんではなく、娘さんでした。
「父が先月から腰を悪くして、病院に通っているんです。それで、父にかわって、わたしが店に立っています。」
娘さんは大阪で働いていて、この一か月だけ帰ってきたそうです。「お客さんの相手に、まだ慣れていません。」と言って、困ったように笑いました。
わたしはノートを三冊と、万年筆のインクを買いました。会計のとき、娘さんが小さな声で言いました。
「閉めるにしても、最後の日まではいつもどおり開けておきたい、と父は言うんです。でも、本当は、体がつらいのだと思います。」
そのとき、店の奥から、杖をついたおじいさんがゆっくり出てきました。山下さんでした。山下さんはわたしの顔をじっと見て、言いました。
「ああ、シャープペンの子だね。」
三十年以上前のことなのに、覚えていたのです。わたしはおどろいて、何も言えませんでした。
「あのころ、五百円のシャープペンを買うために、三回も店に来たね。一回目は見るだけ、二回目は迷うだけ、三回目にやっと買った。」
「覚えていてくださったんですか。」
「この店に来た子は、みんな覚えているよ。ただ、年を取るにしたがって、名前は忘れていくけどね。」
山下さんは笑って、娘さんに小さな箱を持って来させました。中には、昔のデザインの消しゴムが十個ほど入っていました。
「売れ残りだよ。閉めたら、捨てるしかない。持って行きなさい。」
わたしは、ありがたくいただきました。店を出るとき、娘さんが教えてくれました。四月からは、この場所には文具店にかわり、小さなコンビニが入るそうです。
家に帰って、机の引き出しにその消しゴムをしまいました。一人の生活に慣れました。仕事にも、だいぶ慣れました。けれども、あの店がなくなる生活に、まだ慣れていません。それでも、三十年前の自分を覚えている人がいたことは、これからも忘れないと思います。
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JLPT-style reading questions. Pick the best answer.
Q1
店のレジに、店主ではなく娘さんが立っていたのは、なぜですか。
The father is ill, so she came home to help for a month. 「父にかわって、わたしが店に立っています」
Q2
「閉店の日が近づくにしたがって、お客さんは増えている」の「〜にしたがって」は、どんな意味ですか。
〜にしたがって shows two changes moving together. 「閉店の日が近づくにしたがって、お客さんは増えている」
Q3
「閉めるにしても、最後の日まではいつもどおり開けておきたい」の「〜にしても」は、どんな気持ちを表していますか。
〜にしても accepts the fact (closing), then adds a wish. 「閉めるにしても、最後の日まではいつもどおり開けておきたい」
Q4
山下さんが「私」のことを三十年以上たっても覚えていたのは、なぜですか。
He says he remembers every child who came to his shop. 「この店に来た子は、みんな覚えているよ」
Q5
最後に「私」が、あの店がなくなることを、まだ受け入れられていないのは、どうしてですか。
She is used to living alone and to her job, but not to life without the shop. 「あの店がなくなる生活に、まだ慣れていません」
Words in this story
Tab-separated, two columns. Paste into Anki.
閉店 へいてん — closing of a shop 貼り紙 はりがみ — posted notice 店主 てんしゅ — shop owner 腰 こし — lower back 会計 かいけい — paying the bill 杖 つえ — walking stick 覚える おぼえる — to remember 迷う まよう — to hesitate; to be unsure 売れ残り うれのこり — unsold goods 引き出し ひきだし — drawer 慣れる なれる — to get used to 割引 わりびき — discount
Grammar review
Patterns from this story. Find them again as you reread.
ぶりに
for the first time in a while (after an interval)
先週の土曜日、久しぶりに行ってみました。
にしても
even if you do X
閉店セールにしても、お客さんがとても多くて、レジの前には長い列ができていました。
にしたがって
as X changes, Y changes; in line with
閉店の日が近づくにしたがって、お客さんは増えているそうです。
にかわって / にかわり
in place of X; on behalf of
それで、父にかわって、わたしが店に立っています。
ために
for X's sake; because of X
「あのころ、五百円のシャープペンを買うために、三回も店に来たね。」
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