The House Where the Circular Stopped
回覧板が止まった家
私が今のアパートに引っ越してきたのは、三月のことです。大家さんから「この町では回覧板が回ってきますから、お願いしますね」と言われました。回覧板というのは、町内のお知らせをはさんだ板のことです。順番に隣の家へ回していきます。前に住んでいた町では、近所づきあいがほとんどなかったので、私には少し不思議な習慣に思えました。
最初の回覧板が来たのは、四月でした。ごみ置き場の掃除当番のお知らせです。その日の私は、仕事の疲れで風邪気味でしたが、はんこを押して、隣の部屋の前に置いておきました。私の次の家は、一階に住む近藤さんというおばあさんです。ほかの家の人は、「近藤さんは、いつもお元気ですよ」と言っていましたが、最近は姿を見ていないそうです。
ところが、五月の終わりになっても、次の回覧板が戻ってきません。大家さんに聞くと、「近藤さんのところで止まっているようですね」と言います。六月から七月にかけて、お知らせが何枚も増えているはずです。
近藤さんの家の前を通ると、郵便受けは新聞と広告だらけでした。窓のカーテンも、ずっと閉まったままです。私は心配になりました。病気か何かで、倒れているのではないでしょうか。夜もなかなか眠れず、少し寝不足気味の日が続きました。
七月の初めの朝、思い切って大家さんに相談しました。大家さんは電話をかけてくれましたが、誰も出ません。「警察に連絡したほうがいいかもしれませんね」と、大家さんも不安そうでした。
その日の夕方です。階段の下で、大きなかばんを持った近藤さんにばったり会いました。「あら、こんにちは。長い間、留守にしていましてね。娘のところに行っていたんですよ。」と、笑って言います。六月から七月にかけて、孫の世話をしていたそうです。旅行か何かだと思っていたので、私は力が抜けました。
「回覧板、止まっていましたね。ごめんなさい。」近藤さんは、郵便受けを見て、びっくりしました。中は広告だらけです。「あらあら、紙だらけ。片づけないといけませんね。」
その夜、近藤さんが私の部屋に来て、旅行のお土産のお菓子をくれました。私は、回覧板を持って、二人で大家さんのところへ行きました。今は、近藤さんが留守にする時は、前の日に必ず私に声をかけてくれます。小さな板一枚ですが、町の中の人々をつないでいるのだと感じました。
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JLPT-style reading questions. Pick the best answer.
Q1
「私」が近藤さんのことを心配したのは、なぜですか。
The mailbox was stuffed and the curtains stayed closed, so she imagined illness. 「郵便受けは新聞と広告だらけでした」
Q2
「病気か何かで、倒れているのではないでしょうか」の「〜か何か」は、どんな意味ですか。
〜か何か means 'or something like that', so the narrator is only guessing. 「病気か何かで、倒れているのではないでしょうか」
Q3
近藤さんは、六月から七月にかけて、どこで何をしていましたか。
She was at her daughter's place caring for her grandchild. 「六月から七月にかけて、孫の世話をしていたそうです」
Q4
近藤さんの話を聞いて、「私」の「力が抜けた」のは、どうしてですか。
Her fears turned out to be groundless and she felt relieved. 「私は力が抜けました」
Q5
「私」が最後に、回覧板は「小さな板一枚」でも大切だと感じたのは、なぜですか。
The stopped circular led to neighbors talking and looking out for each other. 「町の中の人々をつないでいる」
Words in this story
Tab-separated, two columns. Paste into Anki.
引っ越す ひっこす — to move house 回覧板 かいらんばん — circular notice board 順番 じゅんばん — order, turn 疲れ つかれ — tiredness 郵便受け ゆうびんうけ — mailbox 心配 しんぱい — worry 相談 そうだん — to consult 留守 るす — being away from home 世話 せわ — care, looking after 片づける かたづける — to tidy up
Grammar review
Patterns from this story. Find them again as you reread.
というのは
X is (defined as); as for something called X
回覧板というのは、町内のお知らせをはさんだ板のことです。
合う(あう)
verb stem + 合う: do something mutually
近所づきあいがほとんどなかったので…
気味(ぎみ)
slightly X-ish; a touch of (illness)
仕事の疲れで風邪気味でしたが…
ところが
but unexpectedly
ところが、五月の終わりになっても、次の回覧板が戻ってきません。
ところで
by the way
大家さんに聞くと、「近藤さんのところで止まっているようですね」と言います。
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