The Extra Step
一段多い階段
私は古いアパートの三階に住んでいます。エレベーターがないので、毎晩、階段を歩いて上がります。
ある夜、仕事で疲れていたので、階段の段を数えながら上がってみました。十八段でした。次の日も数えてみました。今度は十九段です。一段多いのです。
数え間違いかと思いましたが、そのあとも、夜遅く帰った日だけ、いつも一段多くなります。昼間に数えると、ちゃんと十八段です。
考えれば考えるほど、不思議でした。こわいというより、気になって仕方がありません。階段ばかりでなく、廊下の電気も、その夜だけ少し明るい気がします。
ある晩、思い切って、増えた一段の前で足を止めました。その段は、ほかの段より少し低くて、木の色も古い感じがします。そっと足をのせると、あたたかく感じました。
そのとき、後ろから小さな声が聞こえました。
「あ、気がつきましたか。」
おどろきのあまり、声が出ませんでした。ふり向くと、階段の下に、白い着物を着た小さなおばあさんが立っていました。足の先は、うすく消えています。
「ごめんなさいね。この一段は、わたしの場所なんです。」
「あなたの場所、ですか。」
「ええ。昔、このアパートがまだ新しかったころ、毎晩ここに座って、帰ってくる人を待っていました。」
おばあさんは、ゆっくり話してくれました。この建物ができたころ、住んでいる人たちはみんな若く、仕事で遅くなる人ばかりでした。おばあさんは、寒い夜に階段に座って、「おかえりなさい」と声をかけるのが好きだったそうです。
「今は、もう声が聞こえないでしょう。でも、疲れた顔の人が帰ってくると、つい一段だけ出てきてしまうんです。」
私は、毎晩だまって上がっていたことを思い出しました。恥ずかしさのあまり、顔が赤くなりました。
「もっと早く、ごあいさつすればよかったです。」
そう言うと、おばあさんは笑いました。
「いいんですよ。あなたばかりでなく、みんな忙しいですから。」
私は、一つ息をして、言いました。
「ただいま帰りました。」
「おかえりなさい。」
おばあさんの声は、やさしくて、あたたかいものでした。聞いているうちに、体の疲れが軽くなりました。
次の日から、私は階段の前で「ただいま」と言うようにしました。返事が聞こえない日もあります。でも、言えば言うほど、不思議と気持ちが楽になります。
先に声をかければよかった、と今は思います。段の数は、今夜も十九段です。
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JLPT-style reading questions. Pick the best answer.
Q1
階段の段の数は、いつ十九段になりますか。
Only on days when the narrator comes home late at night. 「夜遅く帰った日だけ、いつも一段多くなります。」
Q2
増えた一段は、ほかの段とどうちがいましたか。
It was a little lower and the wood looked old. 「その段は、ほかの段より少し低くて、木の色も古い感じがします。」
Q3
おばあさんは、どんなときに一段だけ出てきてしまうのですか。
She comes out when a tired person returns home. 「疲れた顔の人が帰ってくると、つい一段だけ出てきてしまうんです。」
Q4
「わたし」は、どうして顔が赤くなりましたか。
The narrator realized they had climbed in silence every night and felt ashamed. 「毎晩だまって上がっていたことを思い出しました。」
Q5
「ただいま」と言うようになって、「わたし」の気持ちはどうなりましたか。
The more the narrator said it, the easier it felt. 「言えば言うほど、不思議と気持ちが楽になります。」
Words in this story
Tab-separated, two columns. Paste into Anki.
階段 かいだん — stairs 段 だん — a step; counter for steps 不思議 ふしぎ — strange, mysterious 疲れる つかれる — to be tired 着物 きもの — kimono 声をかける こえをかける — to call out to, to greet 思い切って おもいきって — boldly, making up one's mind 恥ずかしさ はずかしさ — embarrassment
Grammar review
Patterns from this story. Find them again as you reread.
ば~ほど
the more X, the more Y
考えれば考えるほど、不思議でした。
というより
rather than X
こわいというより、気になって仕方がありません。
ばかりでなく
not just X but also Y
階段ばかりでなく、廊下の電気も、その夜だけ少し明るい気がします。
ようにする
make a habit of X; try to X
次の日から、私は階段の前で「ただいま」と言うようにしました。
あまり
so much of X that (result follows); excess of a feeling
おどろきのあまり、声が出ませんでした。
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